-帰脾湯(きひとう)-


帰脾湯(きひとう)の効能

比較的体力がなく胃腸が弱く、疲れやすく、貧血気味で顔色が悪く、動悸、息切れ、眠れない、物忘れする、寝汗をかく、夕方になると熱が出る、出血があるといった人に用います。胃潰瘍や下血で、出血傾向が目立つ場合に用いられます。


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帰脾湯(きひとう)の解説

「脾」の働き高める

帰脾湯は「気」も「血」も不足したときに用いられる処方で、「五臓」の「脾」の働きが低下した「脾虚」を改善する代表的な薬のひとつとされています。

「脾」には、食物の養分を生体エネルギーである「気」に換えて体じゅうに運ぶ働きがあります。「脾虚」とは、ひと言でいえば胃腸虚弱です。

帰脾湯に配合された「人参」「黄耆」「白朮」「大棗」などに「気」を補って胃腸を整える働きがあります。

また、「竜眼肉」や「酸棗仁」「遠志」などは「血」を補い、不安をやわらげる働きがあります。さらに、「木香」や「生姜」などが「気」を巡らせます。

虚弱や不眠、貧血などに用いる

帰脾湯は、体力がなく、胃腸虚弱な人で、疲れやすい、食欲がないといった「気虚」の症状や、顔色が悪いなどの「血虚」の症状がある場合の、不眠や不安、抑うつ気分、あるいは、貧血の治療などに用いられます。

息切れ、寝汗、頭のふらつき、動悸、めまいなどの症状も処方の目安となります。

湿疹、皮膚炎などが悪化することがあります。また、血中AG(アルブミンとグロブリンの比率)の検査値に影響することがあります。

適応される症状

胃の痛み(胃潰瘍)

不眠症

貧血

配合生薬

配合生薬の効能

黄耆(おうぎ)

強壮、利尿効果がある他、免疫活性、抗炎症、抗アレルギー、血圧降下作用が認められています。単独で使われることはあまりなく、漢方では補気(益気)薬として配合される重要生薬です。たとえば、疲れ気味で、汗をかく虚弱体質の人によく適用される処方として黄耆建中湯(おうぎけんちゆうとう)があります。

有効成分ホルモノネチンは抗酸化作用を有し、アストラガロサイドや、ソヤサポニンに抗炎症作用が認められています。

また、黄耆の抽出工キスに動物実験で肝障害予防、末梢血管拡張作用、インターフェロン誘起作用などが確認され、黄耆の効能が裏付けられています。

当帰(とうき)

婦人病の妙薬として、漢方でひんぱんに処方される重要生薬の一つです。漢方では古来、駆お血(血流停滞の改善)、強壮、鎮痛、鎮静薬として、貧血、腰痛、身体疼痛、生理痛生理不順、その他更年期障害に適用されています。

茎葉の乾燥品は、ひびやしもやけ、肌荒れなどに薬湯料として利用されています。鎮静作用はリグスチライド、ブチリデンフタライド、セダン酸ラクトン、サフロールなどの精油成分によります。また有効成分アセチレン系のファルカリンジオールに鎮痛作用があります。

駆お血効果を裏付ける成分として、血液凝固阻害作用を示すアデノシンが豊富に含まれています。また、アラビノガラクタンなどの多糖体に免疫活性作用や抗腫瘍作用が認められ、抗ガン剤としての期待も、もたれています。

人参(にんじん)

漢方治療において最も繁用される有名生薬の一つで、古くから高貴な万能薬としてよく知られています。漢方では強壮や胃腸衰弱、消化不良、嘔吐、下痢、食欲不振などの改善を目標に幅広く処方されます。

この生薬の特異成分であるダマラン系サポニン(主としてギンセノシドRb、Rg群)は動物実験で、強制運動に対する疲労防止、および疲労回復、抗ストレス作用、ストレス潰瘍防止、免疫活性およびアンチエイジングなどを示し、各種機能の低下を抑制する作用が認められています。

その他、抗炎症、抗悪性腫瘍、肝機能改善作用、血糖降下作用、血中コレステロールおよび中性脂肪の低下作用なども確認されています。また、記憶障害改善(抗痴呆)効果が示唆されています。

白朮(びゃくじゅつ)

朮は体内の水分代謝を正常に保つ作用があり、健胃利尿剤として利用されています。特に胃弱体質の人の下痢によく効き、胃アトニーや慢性胃腸病で、腹が張るとか、冷えによる腹痛を起こした場合などにもいいです。

日本では調製法の違いによって白朮(びやくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)に分けられます。いずれも同じような効能を示しますが、蒼朮は胃に力のある人の胃腸薬として使い分けられています。

両者の主成分は、精油成分のアトラクチロンと、アトラクチロジンです。ちなみに、白朮には止汗作用があるのに対して、蒼朮は発汗作用を示します。朮は漢方治療では、多くの処方に広く利用される生薬の一つです。

茯苓(ぶくりょう)

茯苓には、利尿、強心、鎮痛、鎮静作用があります。漢方処方では利尿剤、利水剤、心悸亢進、胃内停水、浮腫、筋肉の痙攣などに茯苓を配合しています。

秩苓とは漢名で、植物名をマツホドと呼び、松の根に寄生するサルノコシカケ科の菌核です。秩苓は菌核に多糖類のβパヒマンを、それにテルペノイドやエルゴステロールなどの成分を含んでいます。

最近の報告では多糖類のパヒマンから誘導されたパヒマランに、細胞性免疫賦活作用が認められています。サルノコシカケ科に共通の抗腫瘍作用とともに、今後の研究が期待されています。

茯苓は民間薬としては使われず、まれに利尿を目的に煎液を飲む程度です。漢方でも配合薬としては汎用されますが、単独では用いません。

酸棗仁(さんそうにん)

酸棗仁は鎮静、催眠作用があります。漢方では心因性の不眠症や健忘症、神経衰弱を目標に処方されています。

その活性本体はフラボノイドのスベルチジン類と言われています。サポニンのジュジュボサイドBに抗ストレス作用を裏付ける効果が認められています。

大棗(たいそう)

大棗は滋養強壮、健胃消化、鎮痛鎮痙、精神神経用薬として、多くの漢方処方に配合されています。

含有サポニンのジジフスサポニンによる抗ストレス作用があり、アルカロイド成分リシカミンのおよびノルヌシフェリンなどによる睡眠延長作用、多糖体ジジフスアラビナンによる免疫活性などが報告されています。

その他、サイクリックAMP(環状アデノシン一リン酸)があります、サイクリックAMPは脂肪組織を構成する中性脂肪の分解を促します。また、含有成分フルクトピラノサイドには抗アレルギー作用が認められています。

遠志(おんじ)

遠志のサポニンは胃粘膜を刺激して軽い悪心をひきおこし、反射的に気管支の分泌物をふやして去痰作用を促しますので、去痰薬として用いられます。その他精神安定作用があるので、健忘症などの治療にも用いられます。

遠志の成分はオンジサポニン、ポリガリトール、樹脂などです。

『中薬大辞典」によると、遠志のサポニンがマウスのストレス負荷による潰瘍の発生を抑制したとか、遠志の熱水抽出エキスはインターフェロン誘起作用があるなど、注目すべき所見を載せています。

甘草(かんぞう)

甘草は漢方治療で緩和、解毒を目的として、いろいろな症状に応用されますが、主として去痰、鎮咳、鎮痛、鎮痙、消炎などです。

有効成分のグリチルリチンには、痰を薄めて排除する作用があり、体内で分解するとグリチルレチン酸となって咳を止めます。

その他、グリチルリチンには多種多様の薬理効果が有り、消炎、抗潰瘍、抗アレルギー作用の他、免疫活性や、肝細胞膜の安定化、肝保護作用、肝障害抑制作用などが明らかにされています。

有効成分イソリクイリチンおよびイソリクイリチゲニンは糖尿病合併症の眼病治療薬として、また胃酸分泌抑制作用もあり胃潰瘍の治療薬として期待されています。

甘草はあまり長期服用しますと、低カリウム血症、血圧上昇、浮腫、体重増加などの副作用が現れることがあるので、注意を要します。

木香(もっこう)

木香には、芳香性健胃、整腸、利尿、抗菌などの作用があります。漢方では、食欲不振や消化不良、婦人薬、精神神経などの薬に処方されます。

有効成分は、コスツノリド、デヒドロコスツスラクトンなどです。

コスツノリドとデヒドロコスツスラクトンには、アルコール吸収抑制作用や胃粘膜障害の抑制作用、胃排出能抑制作用、胆汁分泌促進作用などがあります。

生姜(しょうきょう)

生姜は優れた殺菌作用と健胃効果、血液循環の改善効果、発汗と解熱効果があります。漢方では芳香性健胃、矯味矯臭、食欲増進剤の他、解熱鎮痛薬、風邪薬、鎮吐薬として利用されています。

辛味成分のショウガオールやジンゲロールなどに解熱鎮痛作用、中枢神経系を介する胃運動抑制作用、腸蠕動運動充進作用などが有ります。そう他、炎症や痛みの原因物資プロスタグランジンの生合成阻害作用などが認められています。


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漢方薬の使用上の注意

漢方薬の副作用


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