-黄連解毒湯(おうれんげどくとう)-


黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の効能

比較的体力があってのぼせ(顔面紅潮、目の充血、鼻血、吐血、喀血)、イライラ、不眠、動悸、めまいなどの不安煩悶感(ふあんはんもんかん)があり、口がかわいて何んともいえぬ胸苦しさがある方に用います。血尿、発疹、皮膚の化膿などにも良いです。成分のうちの黄連が消化管粘膜の充血や炎症緩和に作用しますので、吐血や胃炎などの治療に用いられます。


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黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の解説

高血圧に対する黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の効果

漢方薬は生薬を複数組み合わせて作られています。気を補うものは補気薬、血行を活発にするものは活血薬、冷えを取るものを散寒薬などといいますが、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)と三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)、いずれも熱を冷ます清熱燥湿薬(せいねつそうしつやく)と呼ばれる生薬を中心に作られています。この清熱燥湿薬とは、乾燥しながら熱を取る薬という意味です。

清熱燥湿薬は黄ごん(おうごん)黄連(おうれん)黄柏(おうばく)などですが、黄連解毒湯は黄連2g、黄ごん3g、黄柏2g、山梔子(さんしし)2gという配合で構成され、三黄瀉心湯は黄連1g、黄ごん1g、大黄(だいおう)1gという配合で構成されています。

現在の医療現場では、この2つの処方は高血圧症に対して使われることがよくあります。高血圧症の原因は様々なものがあると考えられていますが、最も多いのは原因が定かではない本態性高血圧症と呼ばれているものです。なんらかの原因で血液の粘張度が増し、血流の抵抗が増えて毛細血管を通り抜けるときに流れにくくなると、心臓は強く収縮して毛細血管から静脈へ血液を送り出さなくてはならなくなります。これが高血圧症の大きな原因の一つと考えられているのです。

もう一つの原因は血管の硬化で、血管がしなやかですと血液はスムーズに流れますが、これが硬くなりますと心臓は無理に収縮して強い力で血液を流さなくてはなりませんから当然、血圧が上がります。

これ以外ですと、腎臓や心臓、内分泌器官の疾患が原因で起こる高血圧症もあります。こちらは原因疾患が分かっているので本態性とはいわず、二次性高血圧症と呼ばれています。

西洋医学ではこれまで、高くなった血圧を下げる薬が次々に開発されてきました。しかしいずれも、心臓の圧力を減らす作用のあるものや、中枢に作用して圧力が加わらないようにするもので、人為的、物理的に血圧を下げようとするものです。

降圧剤は一度飲み始めたらずっと飲み続けなくてはなりません、それは西洋医学の降圧剤が高血圧の根本原因を取り除かないで、結果として現れている高い血圧値を、ただ下げる働きしかしないからです。服用を中断した場合、血圧値が元の高い値に戻って、血管が破れてしまう危険があります。

黄連解毒湯の応用範囲

西洋医学の降圧剤は、その副作用も問題視されています。体質に合わない場合は、目まいがしたり気持ちが悪くなったり、皮膚にしみができたりします。その点漢方薬は、症状から体質を診断して適正な処方を決めますから、比較的早期に自覚症状が消えて、知らない間に血圧値も下がることが多いのです。西洋医学の降圧剤を服用した場合のように、先に血圧値が正常化することは少なく、首や肩の凝りが解消するとか、耳鳴りや不眠がなくなるとか、高血圧症に伴う不快な症状が先に解消することが多いのです。

黄連解毒湯と三黄瀉心湯が高血圧症という病名をもっている方によく処方される理由は、高血圧症に伴う症状がこれらの処方の適応に合致するからです。

黄連解毒湯は体力が中等度以上の人に用います。症状としては顔がほてり気味で目が充血しやすく、胸が苦しい、また発熱疾患や心配事による不眠、耳鳴り、吐血や下血、血尿、痔出血、ジンマシンや皮膚掻痒症などです。

三黄瀉心湯は黄連解毒湯の証よりも体力が充実した人を対象にします。症状は黄連解毒湯とほぼ同じです。よく三黄瀉心湯は便秘傾向の人に用いる、黄連解毒湯は便秘でない人に用いる、というようなことがいわれていますが、それは関係ありません。

両処方の応用範囲はおおよそ次の通りです。

  • 胃粘膜が充血してびらん、出血、カタルを伴う場合の胃炎。
  • 急な出血、勢いよく大量に出る鮮紅色の動脈性出血などの場合、量的には2~3倍を頓服する。即効性があり西洋医薬の止血剤よりも効果が早いです。
  • 精神不安、イライラ、怒りっぽい、興奮、顔色が赤い、のぼせ、そして狂躁状態の人などに使用します。目がさえて眠れない場合にも即効性があります。
  • 熱を冷ます処方ですので全身性の感染症による炎症、アトピー性皮膚炎など皮膚の炎症、化膿性炎症などに消炎剤として広く使用できます。

西洋医学では消炎剤がよく使用されますが、黄連解毒湯や三黄瀉心湯はその使用範囲がより広いのが特徴です。このため「漢方の救急薬」といわれています。

そして西洋医薬の抗精神薬の範囲まで、応用されるようになりました。このため精神科の分野では、抗精神薬の量を少なくして副作用の防止のために、黄連解毒湯を併用するケースが増えてきたのです。

また、のぼせてきて顔が赤くなり、血圧が高くなっている場合に三黄瀉心湯を服用しますと、顔の赤みが頭のてっぺんから、だんだんと下のほうに向かって取れてきて、血圧も下がってきます。急な血圧上昇の救急薬といわれる理由がここにあります。

さて、黄連解毒湯と三黄瀉心湯はいずれも清熱燥湿の生薬を中心に作られていると述べました。つまり熱した体を冷ます処方ということになりますが、熱といってもその概念は発熱だけではなく、炎症や精神的興奮も含まれています。どちらも構成する生薬は「苦味」のものばかりですから、非常に苦い処方ですが、おもしろいことに漢方的に「熱」の状態の人は苦味を感じないだけでなく、おいしくさえ感じることもあるのです。

つまり、これらの処方を服用して「おいしい」と感じたら適応症ということになるのですが、反対に「寒」の状態の人が服用した場合は副作用が現れる危険があります。ですから、苦いからといってカプセル剤にしたものは服用しないほうがいいでしょう。必ずエキス剤をそのまま服用して、「おいしい」と感じるか確認してください。

三黄瀉心湯と黄連解毒湯の使い分け

三黄瀉心湯と黄連解毒湯の使い分けですが、黄連解毒湯は三焦(上焦、中焦、下焦)の熱を冷まし、三黄瀉心湯は上焦の熱を冷ます、といわれてます。上焦は首より上、中焦は胸から上腹部、下焦は下腹部から足までのことです。首より上の症状なら三黄瀉心湯、それ以外は黄連解毒湯と覚えてください。

適応される症状

胃の痛み(胃潰瘍)

高血圧

胸やけ

不眠症

二日酔い

配合生薬

配合生薬の効能

黄連(おうれん)

苦味健胃薬として、よく利用される重要な生薬の一つです。漢方では精神不安や胸のつかえ、腹部疼痛、下痢、嘔吐を目的に使用されます。

成分としては、アルカロイドが主体で、コプチジンやオウレニン、ベルベリン、パルマチンなどです。

ベルベリンは大腸菌、チフス菌、コレラ菌に対して殺菌作用を、黄色ブドウ球菌、淋菌、赤痢菌などに対して広範囲な抗菌作用を示すほか、抗炎症作用および肝障害改善作用をも示します。抗炎症作用はコプチジンにもみられます。

その他、熱水抽出エキスには、消化酵素の活性化、高コレステロール症状の改善、免疫細胞のマクロファージを活性化して免疫力を強化する作用、鎮静作用など多くの作用が報告されています。

黄柏(おうばく)

黄柏は苦味健胃薬、整腸薬として、胃腸炎、腹痛、下痢に応用される他、打撲傷や神経痛に外用されます。

これらの効果は、黄柏の有効成分のベルベリンが大腸菌、チフス菌、コレラ菌に対して殺菌性を、黄色ブドウ球菌、淋菌、赤痢菌などに対して強い抗菌作用が有る他、抗炎症作用が有ることによります。

また、黄柏は黄疸にも用いられますが、煎汁やアルコールエキスに胆汁分泌促進作用が確認されています。

黄ごん(おうごん)

漢方の中でも最もよく利用されるものの一つで、主に炎症や胃部のつかえ、下痢、嘔吐などを目的に使用されています。

黄ごんエキスは、炎症に関与する諸酵素に対して阻害作用を示しています。これらの作用は、この生薬中に豊富に含まれるフボノイドによるもので、特に有効成分バイカリンやバイカレイン、およびその配糖体はプロスタグランジンらの生合成やロイコトリエン類などの炎症物質の産生を阻害します。

その他、抗アレルギー(ケミカルメジエーターの遊離抑制)、活性酸素除去、過酸化脂質形成抑制、トランスアミナーゼの上昇抑制による肝障害予防、および胆汁排泄促進による利胆作用などが確認されています。

また、ヒト肝ガン由来培養肝がん細胞の増殖を抑制する他、メラノーマの培養細胞の増殖を抑制することより抗腫瘍効果が期待されています。漢方で多くの処方に配合されていますが、単独で用いられることはありません。

山梔子(さんしし)

山梔子は消炎、利胆、止血作用があります。漢方では黄疸、肝炎、血便、血尿、吐血、不眠の治療に用いられます。有効成分はゲニポシド、ゲニピン、クロシン、クロセチンなどです。

クロシンやクロセチンには、胆汁分泌促進作用があります。また、この生薬に脂質代謝改善効果がみられるのは、ゲニピンのLDLコレステロール低下作用と、クロセチンの血中コレステロール低下作用によるものです。

胃腸薬に適用されるのはゲニピンの胃酸分泌抑制作用、鎮痛作用および瀉下作用(便通を良くし便秘を解消する作用)によります。ゲニポサイドおよびゲニピンには、記憶障害の予防効果が期待されています。


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漢方薬の使用上の注意

漢方薬の副作用


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